「金の土」誕生秘話

「田舎のお母さん、どうしたのかしら、今月、お野菜届かないんだけど」

「野菜なら、スーパーでも、どこでも買えばいいだろ」

田舎のおふくろは、私が東京で就職して、家庭を持った今も、野菜を送ってくる。ダンボールに土がついた、ジャガイモ、菜花、アスパラ、ネギ、トマト等、不揃いのごつごつした野菜が新聞紙にくるまれてぎっしり入っている。

週末、新幹線に乗っておふくろのいる故郷に帰ることにした。 バスを乗り継ぎ、峠を越えて、相変わらず山の中だなあと思いながら、やっと自宅にたどりついた。  

玄関を開けると、奥からテレビの音が聞こえる。中に入っていくと、ちゃぶ台にテレビのリモコン、湿布薬、飲みかけの湯のみがきちんと並べておいてある。そのしたで、ひとまわり小さくなったおふくろが横たわっていた。

「どうしたんや、何かあったか!」怪物でも見つけたぐらい驚いたおふくろの顔が見えた。

「こっちこそ、かあちゃんどうしてるかなあって…」

「ぎっくり腰になってなあ」照れ笑いのおふくろの顔をみて安心した。

「晩御飯は、俺が作るけん、かあちゃんじっとしていてな」

慌てて、収穫に田んぼに行くと、大根、白菜、ゴーヤ、里芋が青々と元気よく繁っていた。

芋を掘ろうと土に手をやった。「あったかくて、ふわふわだ」てのひらにのった土の中には、おふくろのあったかさがあった。

ここでおふくろは、いつも野菜作りをしているのか。おふくろがこの土を慈しんでいる様が目に浮かんだ。と、隣のおばちゃんが通りかかって話してくれた。

「あら、久しぶりやなあ、孝ちゃんかえっとんな、いつもお母さん、孝ちゃんに健康な野菜を作って送ってやるんや、それぐらいしかできんけんな、そう言って、精だして田んぼしよるで」と。

 晩御飯の鍋を食べながらおふくろが、 「孝、東京でがんばんじょるんやなあ、小さい時から、あんたは、弱音をはかん子やったから、ひと一番頑張る子やから」腰の痛みも和らいだのか、おふくろもよくしゃべり賑やかな夕食だった。  

お土産にと持ち帰ったお野菜で、妻が筑前煮を作っている。 「やっぱり、この味、このゴボウもおばあちゃんの味だね」 子供たちの言葉に妻と目を合わせてほほ笑んだ。  

そして、田舎のおふくろを思った。

「金の土」は、自然の恵みをいっぱいにふくんだ母の想いから誕生した土です。